幼い頃に誰もが一度は口ずさんだことがある「出た出た月が、まるいまるいまんまるい」という親しみ深いフレーズ。秋のお月見シーズンや保育現場の手遊び歌として親しまれている名曲ですが、実はこの曲の正式タイトルや作詞作曲の背景、さらには2番の歌詞まで正確に把握している人は多くありません。
近年ではインターネット上で「実は怖い意味が隠されているのではないか」といった都市伝説めいた噂が囁かれることもあります。100年以上にわたり日本人の心に刻まれてきたこの旋律のルーツ、歌詞に込められた本来の情景、そして怪奇的な噂の真相について、当時の歴史的資料をもとに紐解きます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:楽曲の正式名称は明治43年に発表された文部省唱歌の『月』であり、作詞作曲者は当時の編纂委員会形式のため公式には不詳。
- 要点2:「盆のような月」はお給仕に使う平らで丸いお盆を指し、あまり知られていない2番には雲間から顔を出す月の風情が美しく描かれている。
- 要点3:「怖い噂」の多くは福岡県民謡『炭坑節』の歌詞や他のわらべうたとの混同、夜の月に対する神秘的なイメージから派生した俗説に過ぎない。
【楽曲のルーツ】「でたでた月が」の正式名称と文部省唱歌としての歴史
多くの人が「でたでた月が」という歌い出しをそのまま曲名だと思い込んでいますが、この童謡の正式名称は『月(つき)』です。
初出は1910年(明治43年)に文部省が発行した『尋常小学読本唱歌』でした。当時の日本は、近代教育の一環として子供たちに美しい日本語と音楽教育を普及させる国家プロジェクトを進めており、その中で誕生した教材の一つが本作です。
気になる作詞者・作曲者についてですが、当時の文部省唱歌は合議制(編纂委員会)によって作られていたため、個人の名前はクレジットされず「文部省唱歌」として公表されました。後世の研究者によって国文学者の高野辰之が作詞に関わり、東京音楽学校の教授陣が作曲に関わった可能性が指摘されていますが、確固たる公式記録は残されていません。個人の著作権を主張せず、国民共通の財産として作られたからこそ、1世紀以上経った今でも色褪せずに歌い継がれています。
【歌詞の全貌】意外と知らない「2番の歌詞」と「盆のような月」の意味
幼稚園や家庭で親しまれているのは主に1番ですが、この楽曲には情緒豊かな2番の歌詞が存在します。
【1番】
出た出た月が まるいまるいまんまるい
盆のような月が
【2番】
隠れた雲に 黒い黒いま黒い
隅(すみ)のない雲に
※教科書や時代によって表記のゆらぎがあり、「重い雲をぬけ出して」「隠れたり出たり」といった派生バージョンや、続きのフレーズが採録されているケースもあります。
1番に登場する「盆のような月」という表現に、現代の子供たちは首を傾げることがあります。ここで言う「盆」とは、お盆休みの行事ではなく、食事やお茶を運ぶ際に使われる丸いお盆(トレイ)のことです。平らで歪みがなく、見事な円を描く満月を、家庭で日常的に使われていたお盆の形に例えた、当時の生活感あふれる見立て表現です。
2番では一転して、夜空に立ち込める黒雲と、その奥へ隠れていく月の対比が描かれます。夜空の明暗の移り変わりを「まるい」「黒い」というシンプルな対比で表現した、極めて洗練された日本語の情景描写です。
「でたでた月が」は本当に怖い?ネットで囁かれる都市伝説の真相
検索エンジンやSNSでこの曲を調べると、「怖い噂」「本当は怖い意味」といったキーワードが散見されます。「子供の神隠しを歌ったもの」「口減らしの悲劇を隠蔽している」といった怪談めいた解釈が語られることがありますが、結論から言えば、これらはすべて後世に作られた根拠のない都市伝説です。
噂が生まれた背景には、主に2つの理由が存在します。
1つ目は、福岡県民謡『炭坑節』との混同です。『炭坑節』の歌い出しは「月が出た出た月が出た、三池炭鉱の上に出た」という非常に似たフレーズで始まります。炭鉱の過酷な労働環境や事故の歴史と、文部省唱歌の素朴なメロディがネット上で混ざり合い、いつの間にか「不気味な背景があるのではないか」と誤認されるようになりました。
2つ目は、『かごめかごめ』や『通りゃんせ』に代表される「童謡の裏読みブーム」の影響です。古風な短調の響きや、夜・月といったモチーフは怪奇話と相性が良く、2番の「黒い黒いま黒い雲」という陰影のあるフレーズが深読みを招く土壌となりました。しかし、歴史的史料を精査しても、この曲は純粋に尋常小学校の児童向けに作られた情操教育の歌であり、暗い裏設定は一切存在しません。
親子の触れ合いから教育現場まで|今も愛される手遊び歌のバリエーション
『月』は現在でも、保育園や幼稚園、リトミック教室などで定番の「手遊び歌」として親しまれています。
手遊びのスタンダードな動きでは、以下のようなジェスチャーが用いられます。
- 「出た出た月が」:両手を下から上へゆっくり持ち上げる
- 「まるいまるいまんまるい」:両手で頭の上に大きな満月を作る
- 「盆のような月が」:手のひらを上に向けて平らなお盆の形を胸の前で作る
- 「隠れた雲に」:両手で顔を覆って「いないいないばあ」のポーズを取る
指先や全身を使って情景を表現できるため、乳幼児の空間認識力やリズム感を養う遊び歌として重宝されています。短い尺の中で起承転結がはっきりしている点も、小さな子供が飽きずに楽しめる要因です。
【音楽的分析】覚えやすい楽譜とメロディの秘密|日本古来の音階が生む哀愁
なぜ『月』の旋律は、一度聴いたら忘れられないほど心に染み入るのでしょうか。その秘密は、日本伝統の音階と西洋音楽の融合にあります。
本作は4分の2拍子の親しみやすいリズムで構成されており、使用されている音の数が非常に絞り込まれています。主に日本古来の民謡にも通じる「ヨナ抜き音階(西洋音階の第4音・第7音を抜いた音階)」に近い響きを持っており、日本人のDNAに自然と馴染む音響構造になっています。
シンプルでありながら、跳躍進行(音が大きく上がったり下がったりする動き)が美しく配置されており、満月が夜空へ昇っていく浮揚感を見事に音楽化しています。明治期の教育者たちが「子供でも無理なく歌え、かつ美しい旋律」を極限まで追求した職人技が、この簡潔な楽譜の中に凝縮されています。
【でたでた月が】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「出た出た月が」の正式な曲名は何ですか?
A1:正式な楽曲名は『月(つき)』です。1910年(明治43年)の『尋常小学読本唱歌』に収録された文部省唱歌です。
Q2:作詞者や作曲者は誰ですか?
A2:文部省の教科書編纂委員会によって制作されたため、公式記録としては作詞・作曲ともに不詳(文部省唱歌)とされています。高野辰之などの関与が推定されています。
Q3:『炭坑節』の「月が出た出た」とは違う曲ですか?
A3:全く別の楽曲です。『炭坑節』は福岡県の三井三池炭鉱などで歌われていた労働民謡であり、文部省唱歌の『月』とはメロディも発祥の歴史も異なります。
まとめ:100年以上歌い継がれる名曲が伝える日本の美意識
「でたでた月が」のフレーズで親しまれる文部省唱歌『月』は、怪しげな都市伝説とは無縁の、日本の美しい夜景と生活美を描いた傑作です。丸いお盆に例えられた満月、夜空を覆う雲のグラデーション、そして親しみやすいヨナ抜きのメロディ。そこには、明治の教育者たちが子供たちへ託した豊かな感性と美意識が息づいています。
澄んだ夜空に浮かぶ丸い月を見上げたときは、ぜひ忘れられがちな2番の歌詞まで口ずさみながら、古き良き日本の情景に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。 (出典: で た で た 月 が(Yahoo!ニュース))